諸味胡瓜氏について

ご紹介

作編曲家 諸味胡瓜 氏

幼少期のピアノ教室から、「世の中の音楽がつまらない」という反骨心を胸に独学で作曲を始めた高校時代、そして就職氷河期を機に本格的な音楽の道へ——作編曲家・諸味胡瓜さんの歩みは、どこまでも自分の耳と感覚を信じる選択の連続だった。ジャズやシティポップをルーツに、VTuberへの楽曲提供で注目を集める彼が大切にするのは、”シンプル&キャッチー”というポリシーと、聴いた人が生涯手放さない音楽を作るという信念だ。ライブイベントの主催やメディア立ち上げなど、新たな挑戦を見据える諸味胡瓜さんに、音楽との向き合い方をたっぷり語っていただいた。

インタビュー全文

音楽を始めたきっかけ

Tukkun

——作編曲家として活動されている諸味胡瓜さんにインタビューができて光栄です! ぜひ音楽を始められたきっかけについて教えてください。

諸味胡瓜

小学校入学前ぐらいからピアノ教室に通い始めたのがきっかけです。そこから高校3年生まで続けていたのでかなり長く習っていました。きっかけ自体は覚えていないのですが、2歳か3歳の頃に家族旅行で行ったハワイのディナーショーで、フラダンスやファイヤーダンスを見ながら激しく踊り回っているのを見て、音楽好きな親が「この子は音楽が好きなんだろう」と感じたことが、ピアノ教室に通わせるきっかけになったようです。

Tukkun

——すてきなエピソードですね(笑)。そこからは割と真剣に通われていたのでしょうか。

諸味胡瓜

最終的にはやる気がなくなってやめてしまったので、結構面倒に感じることも多かったですね。ただ、音楽や演奏自体が嫌いだったわけではないですし、年に1回の発表会では好きな曲を弾けたので、それがとても楽しかった記憶があります。レッスンではクラシックの練習曲ばかりでしたが、発表会に限っては映画の主題歌やマイナーなCMの曲など、自分の好きなものを弾いていました(笑)。

作曲を始めたきっかけとその理由

Tukkun

——そこから作曲をしてみようと思ったのには、どういったきっかけがあったのでしょうか。

諸味胡瓜

高校2年生の頃に作曲ソフトを買ったのがきっかけで、そこからずっと作り続けていました。ただ、どこからいわゆる”作曲活動”かという明確な区切りはなく、ずっと趣味で続けていたような状態です。ただ、お金をいただいて曲を作るという方向にシフトしたのは、大学卒業のタイミングでした。就職活動をしていたのですが、氷河期だったこともあり、良い就職先が見つからなくて……。卒業が迫る中で「どうしよう」となった時に、クリエイティブな能力を活かして仕事をしようと思い、作曲の道に進みました。

その後、大学卒業後に2年間音楽の専門学校に通って、その辺りから作曲家として本腰を入れるフェーズに入った感じです。

Tukkun

——そもそも高校2年生の時に曲を作ろうと思ったのはなぜでしょうか。

諸味胡瓜

はっきりとしたきっかけや”熱意”があったわけではないのですが、明快な理由として言えるのは、世の中に出ている音楽が好きではなかったからです。

小学生の頃は、小室哲哉さんや浜崎あゆみさん、AAAさんといったミュージシャンの音楽が流行っていた時代でした。でも「全然面白くない」と感じていて、というのも母親の影響で70〜80年代の音楽をよく聴いていたので、「ないなら好きな曲を自分で作ればいい」という発想になったんだと思います。

今でこそサブスクでさまざまな楽曲が聴けますが、当時はメディアで取り上げられた音楽をみんなで聴く時代で、聴く音楽が画一化されていました。それに対して明確なアンチテーゼがあったわけではないのですが、「つまんないな」と感じていたことが、作り始めたきっかけの一つだと思います。

専門学校でのお話

Tukkun

——大学卒業後に通っていた専門学校での話もぜひ聞かせてください。

諸味胡瓜

高校生の頃から作っていたこともあり、専門学校の時点でもある程度の曲は作れるようになっていたんですよ。先生方もそれを理解してくださったようで、楽曲をどう売り出すかという授業を受けさせていただいていました。当時はちょうど楽曲のダウンロード販売が始まったばかりで、ITunes Musicをプラットフォームに自分もいち早く楽曲販売を行なっていました。

ボーカロイドについて

Tukkun

——現在、楽曲提供の傍らボーカロイドを使用した楽曲も発表されていますよね。

諸味胡瓜

大学生の頃にボーカロイドを買って2曲か3曲作りつつ、その勢いでボーカロイドのアルバムを作ったこともあったのですが、そのタイミングで熱が冷めてしまいました。そこから昨年5月末頃にしぐれうい先生をボーカロイド化した”雨衣”がリリースされたのを機に、また自分で曲を作って発表しようと思い立ちました。VTuberさんへの楽曲提供はたくさん手がけてきたのですが、なかなかそのファン以外の方に聴いていただけない場面もあって、もっと広い方々に届けたいという思いもありましたね。

作風や制作について

Tukkun

——発表されている楽曲をいくつか聴かせていただきました。爽やかで楽しい楽曲が多いですよね。

諸味胡瓜

好きなジャンルとして、ジャズやシティポップをルーツに持っています。母親が山下達郎の大ファンで、今でも一緒にライブに行くこともあるんですよ(笑)。あの辺りの音楽や、もう少し時代をさかのぼった”モータウン”のような激しすぎず、ハードすぎない、爽やかで柔らかいジャンルがルーツにあることが大きいと思います。

Tukkun

——楽曲制作では理屈を立てて音楽を作っていく方でしょうか。

諸味胡瓜

実は、音楽理論の授業はあまり聞いていなかったんですよ(笑)。最低限のことはわかりますが、理屈というよりは、アレンジしつつ、曲を聴きながら「このコード進行、面白いな」と感じたものを吸収して作っている感じです。自分の耳の感覚、フィーリングを大切にして作っています。

Tukkun

——どの曲もノイジーな部分がないですよね。

諸味胡瓜

確かにノイジーなサウンドを使わない傾向は強いのですが、どちらかというと消極的な理由で使っていません。そもそもハードロックやEDMが好みではないので、必然的にクリーンなサウンドになります。それと、あまり暗い曲を作らないというのも自分のコンセプトとしてあります。曲を作るなら明るい世界観にしたいという気持ちが深層心理にあって、サウンドもメロディーも歌詞も含めて、耳障りにならないようにしているのだと思います。

Tukkun

——デジタルな音と生音の組み合わせにも特徴がありますよね。

諸味胡瓜

いろいろなジャンルを作りたいと思って活動しているので、アコースティックな楽器だけで表現できない曲があれば、必要に応じてバランスを変えながら組み合わせています。アルバム全体を見た時、アコースティックとデジタルの曲が混在すると統一感がなくなってしまうので、アコースティック寄りの曲にはシンセを足し、デジタル系の曲には生ドラムなどを加えてバランスを取るようにしています。

Tukkun

——曲の長さにもばらつきがあって、7分近い楽曲もあって驚きました。

諸味胡瓜

最近サブスクの流行も相まって全体の傾向として、尺を短くすることが多くなっていますね。ただ7分15秒ある『あたりまえになる人へ』に関しては、歌詞がうまく作れたので、Aメロ・Bメロ・サビからDメロ、大サビ、さらにEメロへと展開していくうちにどんどん伸びてしまいました。またアウトロを長くしがちな癖があって、特に『ヨット・レース』ではその傾向が顕著です。専門学校の先生に「フェードアウトは甘えだ」と言われたことが今でも頭にあって(笑)、個人的には「そんなことないでしょ……」と思いつつも、エンディングを作る際には他に手段はないかと試行錯誤するようになりました。まあ、とはいえ『ヨット・レース』はフェードアウトで終わるんですけどね(笑)。

Tukkun

——作業しながら聴いていたのですが、途中で曲調がガラッと変わる楽曲もありますよね。

諸味胡瓜

『おうちがいちばん』は特に特徴的ですね。大サビまでジャズ寄りのリズムパターンで進んで、そこで終わったと思ったらボサノバのリズムパターンに切り替わり、そのままフェードアウトする構成になっています。
これには明確な元ネタがあって、映画音楽のバート・バカラックがよく使っていた展開になります。アウトロで全然違うジャンルや異なるリズムパターンを放り込んでくる手法をよく使っていて、その構成がとても面白いと感じたので取り入れています。

Tukkun

——歌っている方に合わせてキーを調整しているような印象も受けました。

諸味胡瓜

レコーディング前にはキーのチェックを行うことが多いです。サビがある程度できた段階で、半音ずつずらした複数のインスト音源を渡し、ヴォーカルさんに仮歌を録音してもらいます。その録音を聴いたうえで、ヴォーカルさんにとって最も歌いやすいキーを実際の楽曲に採用しています。

一般的にはヴォーカルさんが歌える音域の範囲内でメロディーを作ることが多いですが、私の場合は少し違っています。ヴォーカルさんの声が一番響くスイートスポットを探して、その音程を起点にメロディーラインの上限と下限を決める作り方をしています。サビで高い音程に持っていくのが主流ですが、あまり高くしすぎると無理をさせてしまいますし、ライブで歌いづらくなってしまいます。そうなるとライブで歌われなくなってしまう懸念もあるので、なるべくストレスフリーで歌えるキーを意識しています。

Tukkun

——そうした上でかなりキャッチーなメロディーラインですよね。

諸味胡瓜

“シンプル&キャッチー”というポリシーで作っています。ここで言うシンプルとは、歌う人が歌いやすく、聴く人が聴きやすいということを指してます。それだけでは面白みが出ないので、メロディーを下から上へ跳躍させるような、あまり耳にしないようなメロディーラインをキャッチーな要素として加えています。

また、一般的なポップスでは低い音から高い音へ展開させていくメロディラインが多い傾向にありますが、自分は逆に、上から下へ降りていくラインを意識的に取り入れることもあります。そういった部分が、一般的なポップスと一線を画するメロディーラインになっているのかなと思います。

Tukkun

——歌詞についても、その方に寄り添った作詞をされているのが印象的でした。

諸味胡瓜

その方の日常を切り取るような歌詞を得意としています。菜花ななさんの『おうちがいちばん』では彼女がどんな休日を過ごしているかを想像しながら書きましたし、モノカキ・アエルさんの『QWERTY PARTY』では、シナリオライターである彼女の作業風景を思い浮かべながら歌詞に落とし込みました。

自分の心情や考えを前面に出すのはあまりやりません。そう何曲も書けるほど、日頃から考えていることがあるわけでもないので(笑)。特定のメッセージを届けたいというよりは、シチュエーションやその方自身をイメージして作詞することがほとんどです。sumeshiii a.k.a.バーチャルお寿司さんに作った『大江戸かっぱ巻物帳』のように、歌詞に肉付けしていくと物語になるような作品を作ることもあります。

また、私の場合は歌詞を書きたいから曲を作るというより、ジャンルを先に決めてから作ることが多いです。ラテンミュージックにはラテンにしか合わない歌詞があるように、ジャンルに合ったコンセプトを探す方向でアプローチしています。とはいえ、歌詞によっていろいろなアプローチをしていますね。

今後の目標について

Tukkun

——いろいろ聞かせていただきありがとうございました。今後の目標についても教えてください。

諸味胡瓜

基本的な活動の方針として、一過性ではなく、その人の生涯でずっと聴き続けられるような音楽やコンテンツを作ることをポリシーにしています。新しいジャンルに挑戦し続けたいという気持ちも変わりません。

それと、今年の大きな目標としてライブイベントの主催を掲げています。ミニアルバムをリリースしつつ、VTuberさんに歌っていただき、その曲をライブで披露していただくところまでを一貫してやり遂げたいと思っています。ジャンルは固定せずいろいろな曲を入れる予定なので、やることがたくさんありますね。

また、知り合いのアレンジャーさんと分業体制を作っているので、私がメロディーと歌詞を担当して以降のアレンジをお任せするかたちが整ってきました。作業効率が上がることで、新しい活動に使える時間も増えると思います。

Tukkun

——完全に新しいことにも挑戦されるわけですね!

諸味胡瓜

空いた時間で音楽とは全然関係ないことにも挑戦したいと思っていて、メディアを立ち上げようかと考えています! VTuberを目指している知り合いもいるので、プロデュース的なことも試してみたいですし、音楽以外の分野にもどんどん手を伸ばしていきたいフェーズにいます!

皆さんへメッセージ

Tukkun

——最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

諸味胡瓜

基本的に音楽は自分のために作っています。誰かのために音楽を作っているとか、誰かの心を癒やしたいといった願望よりも、まずは自分が作りたいものを作って、その作品を聴いた方々に自由に楽しんでもらいたいというスタンスを取っています。

これからも好き勝手にいろいろ作りますので、ぜひかいつまんで楽しんでいただけたらうれしいです。私の楽曲だけを聴くのももったいないので、ぜひいろいろな音楽を聴きながら、私の曲も好きに消費していただけたらと思います!

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