Tatsh氏について

作編曲家 Tatsh 氏
ゲーム音楽・同人音楽シーンで長年活躍し続けるTatsh氏。しかしその歩みは、決して平坦なものではなかった。音楽とは無縁だった少年時代、高校で経験した不登校と留年、そして通信高校からプロへ——。数々の困難を乗り越えながら、22歳でKONAMIに入社し「みんなの知ってるTatsh」になるまでを、本人の言葉で振り返ってもらった。
インタビュー全文
音楽との出会い

——ゲーム音楽、同人音楽を中心に活動されているTatshさんにインタビューができて大変光栄です。音楽と出会った時のエピソードを伺えればと思います。

小さい頃から音楽の教育を受けていたわけでもなかったですし、むしろ小学生ぐらいまではそんなに音楽に興味なかったですね。どちらかというと、ゲームの方が好きで、当時はゲームクリエイターなんて言葉はなかったですけど、ゲームを作る人になってみたいなっていうのは結構ありました。それこそ、小学生の終わりぐらいからだったんですけど、小学生ながらに結構コアな“ゲーム好き”をやっておりました。相当ディープに情報を探りつつ、当時テレビだとゲームの情報番組も浅めのしかなくて、ラジオを聞いていたんですよ。

それまで知っていた音楽って歌がメインの音楽ばかりだったんですけど、ラジオで流れてきた音楽の中に、しっかり楽器が出てたり、シンセが目立ってたりしていた音楽が流れて来たんですよ。それまで知っていた音楽とは全然違ったので、「かっこいいな。これやりたいな」っていう風に思ったのが最初ですね。

——全然音楽とは関係がない生活をしていたんですね!

そうですね。部活も音楽と全然関係ないところに入っていた上に全然やる気もなくて……。でも中学生になって、何かしら自分の中で一生懸命やるものを探していた時にギターを始めたんですよ。でも「お前不良になるのか」みたいに言う親だったんで……、それでもギターは始めたんですけどね。ただ、いまいちしっくりこなくて、シンセもやりたいなって思ってはいたんですけど、鍵盤楽器って小さい頃からピアノを習ってないとできない楽器だと思ってたので、最初には手を出さなかったですね。とはいえ、高校生に上がったタイミングで、親にお金を借りて念願のシンセを買いました!

しかもテストで100点取ったらお金を返さなくていいって言うんで、頑張ったら見事に数学で100点が取れて! 当時で17万とかだったんで、結構な大金でした……。この場を借りて、母に感謝を伝えたいですね。

——本当に念願のシンセだったわけですね!

初めて家で触った瞬間から「おお……!」って思いました。ギターを手にした時とは違って、なんとなく自分の中で響くものがあって「これはなんかできそうな気がする」って思ったんですよ。オールインワンシンセというやつで、ゲームボーイくらいの小さい液晶画面の中で操作したりして、曲を組み立てたり、音色をエディットしたりするのですが、その操作も面白かったですし、コード進行とかがあることはギターをやって知っていたので、いろいろと自分の中で結びついて、誰に教わることもなく、すぐに作曲できるようになっていました。
念願のシンセライフ

——そこからシンセライフがスタートするわけですね!

ところが、ここからが暗黒時代で……。高校の夏休みを明けてから、いろいろあって、学校に行けなくなっちゃったんですよね。でも親にそれを言うのも恥ずかしいっていう気持ちがあったので、「夢がある!」っていうような感じで「音楽学校に行きたい」っていうことを隠れみのにして、親や先生にそれを言い始めたんですよ。ただ、もちろんそんな理屈が通用するわけもなく、高校の先生からも「学校に来い!」って何回も言われて、ようやくそこで行かなくなった理由を打ち明けて、徐々に通い始めた感じですね。本当に人生で一番、つらい時期でしたね。毎日、次の朝が来なければいいのにって思っていました。

——結構つらい時代を過ごされたわけですね。

それで結局は出席日数が足りなくて、留年になってしまい、それを見かねて親からは「通信高校に行きながらなら音楽の学校に通ってもいい」って言ってくれて、本当に恵まれてましたよね。

通信高校に行ったら、中学から不登校ですとか、病気がちな子とか、いじめられた子とかいろいろな事情がある人が集まっていました。ここで今でも時々付き合いのある友達もできるようになったんですよ。今となってはいい思い出ではあるんですけど、その当時はやっぱり“普通のレール”から外れた危機感っていうのはあったので、「音楽は頑張らないといけない。一生に1個ぐらいは頑張ってみよう」って思ってましたね。その時は未来への希望っていうのが見えてなかったと思うんですけど、そうやって行動できたのは良かったなって思います。

でも難しいですよね。僕なんかたかだか半年不登校になって、学校も変わりましたけど、すぐに未来へ進めたけど、世の中そんなに恵まれた人間だらけではないじゃないですか。二つも学校に通わせてもらえる環境でもあったわけで……。
這(は)い上がった先の音楽活動

——そこからでも這(は)い上がれたのは間違いなくTatshさんの力だったと思います。話は少し変わりますが、そこからの音楽活動はどのような感じだったんでしょうか。

いろいろ細かい活動はしていたんですけど、18歳ぐらいの時に20代後半のミュージシャンと知り合いまして、その人が脱サラしてプロのミュージシャンを目指すっていうことをしていたので、それのお手伝いを始めました。その人が曲と歌詞を書いて歌も歌って、ライブのブッキングとかも全部やってもらっていたので、僕はある意味、演奏とアレンジに専念するっていうような感じでやっていました。年の差もあったので、いろいろと良い経験を学ばせてもらいました。実際にクラブに行って、クラブミュージックに触れたのもその時でしたね。ライブ活動をやっている間にその人がテレビ番組やCMの音楽を作る仕事を取って来たっていうのが僕のプロとしてのスタートみたいな感じでした。

——そうしたらかなりプロとしては速いスタートだったんですね!

年上の人と一緒にやってたからか、めちゃくちゃ早かったと思いますね。そこからは自分の音楽もやりたいって言って抜けさせていただいて、また別の音楽学校に通ったんですよ。そこから22歳の時にNAOKIさんと出会ってKONAMIに入社しまして、音楽ゲームを作り始めまして、みんなの知ってるTatshになるのかなと思います。でも、Tatshって名前は、年上の方と一緒にやっていた時に使っていた名前でしたね。実は、フルネームだと、TatshFaceだったんです。

——そういえば、以前バンドもやっていたと伺いましたが、それはいつのタイミングだったんでしょうか。

最初に通った音楽学校での話ですね。そこで知り合った人とバンドを組んだんですけど、3回くらいスタジオに入って「これは違うな」ってすぐ思いました。なんでかって言うと、僕は既にオリジナル曲をずっと作っていたので、オリジナル曲をやりたかったんですよ。でも他のメンバーが「まずはコピーから」とか、コピーで提示された曲も、自分がやりたい音楽とは違っていたので、続かなかったですね。後は、僕が作ったオリジナル曲を持って行っても、良い反応を得られなかったというのも大きかったですね。

そんな状況を聞いた別のギターの友達が「じゃあ達也がやりたい音楽をギターとしてやってあげるよ」って言ってくれて、そこから女性のボーカルさんも迎え入れて活動を開始しました。ちょっと続きはしたんですけど、何曲か作っていくうちにボーカルの子が「プロになるのは難しい」っていうことで、辞めちゃったんですよね。そこから自分でリーダーをやるのも大変だったので、その活動を一区切りしようと思っていた時に、脱サラしたミュージシャンと知り合ったっていう時系列になります。
憧れのゲーム音楽へ

——話を戻しますが、憧れのゲーム音楽とつながれたわけですね。そうなるように頑張って活動をされていたことが実ったっていう感じなんでしょうか。

こういう仕事がしたいと思って行動をしていたことはなくて、人との出会いの中でテレビの仕事があったりしましたね。音楽活動を始めてから今に至るまで仕事を選んだことは1回もないと思います。目の前に何か音楽を作る機会があれば作って来た感じです。その上、CMの音楽を作ったときに「音楽性は関係なくて、商品がよく売れるような音楽を作ってほしい」っていう意見をもらって、とても勉強になりました。

——そこからある意味“音ゲーの音楽”を作ることになったと思うんですが、そこはいかがでしたか。

やっぱりたくさんプレイされる曲を目指さないといけないし、さらには自分の色を出さないといけなくなってきた感じですね。他の人みたいな曲は他の人が作ればいいじゃないですか。そうなってくると、初めて本当に自分の中にある音楽性と、音ゲーに合う音楽っていう要素を突き詰めていって、Tatshサウンドが作り上げられていったのかもしれないですね。自分の音楽っていうものを表現し始めたんだと思います。

——本当に紆余(うよ)曲折があってここにいるわけですね。

振り返ってみると、大学も行ってないし、高校の勉強も最低限しかやってないですからね。でも人生の中で音楽に使ってる時間は相当多い人間にはなったのかなと思いますよ。大学受験の時間をまるまる音楽の勉強に使っていたので、そういう意味では音楽にたくさんの時間を使えていい人生だったなって思いますね。
次回『【作編曲家】Tatsh 作り続ける、またその先へ【インタビュー・後編】』に続く。5月4日(月)20時に投稿。
お知らせ
DJ MURASAME『TECHNO-MATRIX』、TatshMusicCircle『BEYOND THE WAVE』が各種音楽配信サービスにて配信! 詳細は以下を参照に!

