ナナシのゴシック!について

作曲チーム ナナシのゴシック!
ゴシック系のフリーBGMや物語音楽を制作するクリエイターチーム「ナナシのゴシック!」。作曲とイラストを一手に担うナナシと作詞とプロデュースを担当するカカシ。2023年6月の始動から、ゲームやTRPG制作者から厚い支持を集めてきた。「プロデュースしてほしい」という一言から始まった二人のプロジェクト、あえてゴシックというジャンルに絞り込んだ戦略、そして楽曲に込める感情まで――結成の裏側をたっぷりと語ってもらった。
インタビュー全文
結成について

——ゴシック系フリーBGMや物語音楽を作っているナナシのゴシック!のお二人にお話が聞けて光栄です。早速ですが、結成について伺えたらと思います。

2023年6月から〔ナナシのゴシック!〕として活動を始めたのですが、私自身は以前から趣味で曲作りをしていました。しかし、聴いてもらうための工夫をせずにただ作って出すだけだと、自分の曲を聴いてくれる人はあまりいないということに気づいたんですね。
趣味の範囲で好きにやっていて数字を追うこともなく、現状に満足していました。
それからカカシと出会い、お互いの仕事について考える機会が増えて、私の作曲スキルを活かさないのはもったいないのではないか?と思うようになり、カカシに「私をプロデュースしてくれ」と頼んだのが始まりです。「今の自分の力では作品を売り込めないから、世の中に発信する力が欲しい。協力してくれ!」って言いましたね(笑)。

そんな感じで一緒にやることになりました。とはいえ、元々ナナシは絵を描いている人だったので「絵の仕事を見つけられればいいな」っていうことも知っていて、それなら曲と絵を一緒に出したらいいのかなと思って今のスタイルを提案しました。イラストだけだとSNSっていうことになると思うんですけど、曲だとYouTubeにも出せるので曲を出した方が人に見られるのかなっていう考えもあって、それがどっちの仕事にもつながったらいいよねって考えていました。イラストだけで仕事を取るってなかなか難しいと思ったので、フリーBGMっていう知ってもらいやすい音楽と掛け合わせてきたっていう感じです。

——そんな結成秘話があったんですね!

最初はちょっとかみ合わなかったですけどね。
自分の技術でできるのかという不安と、「フリーBGM」として出すことについて良い効果が見込めるのかどうか。「本当にこれでうまくいくのか……?」という気持ちが大きかったです。YouTubeのチャンネルが始動してからしばらくして、私は『東方Project』が特に好きなので、それに近いことができないかというアイデアが出てきて、曲ごとにイメージキャラを考案して毎回イラストを描き下ろすようになりました。
音楽との接点

——ちなみにカカシさんは音楽とはどのような関わりがあったんでしょうか。作詞も担当されているとのことですが。

自分自身は音楽をやったことがなくて、遊びでピアノに触ったぐらいの記憶しかないですね。なので、ナナシが音楽を本格的に作るようになってから関わるようになりました。それこそ、イラストと曲のメインとなるコンテンツの両方をナナシが作っていたので、それ以上作業量が膨大にならないように、自分が作詞をするようになりました。

——ちなみにナナシさんが音楽をやり始めたのはいつからなんでしょうか。

4歳ぐらいの頃、カワイのグループレッスンからピアノを始めました。入会案内の白い半透明のDM封筒を握りしめて「これをやりたい!」と言ったのをよく覚えています。
教室を変えながら高校3年の頃まで習っていたのですが、最後の頃には漫画を描きたいとしか考えていなかったので、いったんピアノからは離れました。
それと中学と高校では吹奏楽部で打楽器を担当していました。ピアノや吹奏楽のコンクールに出る機会が何度もあって、出場者の間でも張り詰めた独特の空気が流れているのを幾度となく感じました。そこで「音楽というのは本気でやっている人のための舞台なんだ」と敷居が高く感じたのも、音楽が趣味にとどまった理由の一つですね。

自分の中で音楽はもっと気楽にやりたいと思っていたため、コンクールで上りつめたり音楽を仕事にしたりしたいとは思いませんでした。
DTMについてですが、中学1年の頃にVOCALOIDの楽曲を聴くのにハマって、好きな曲を楽譜なしのピアノで弾いていました。そこで初めて「耳コピ」できることに気がついて、同じことをパソコンでもやろうと、DominoなどのMIDIシーケンサーを使うようになった感じですね。2013年にはUTAUの重音テトちゃんでオリジナル曲も出しました。
このような経緯で、打ち込みの技術や曲作りの基本はおのずと身についていきました。

——ただ、最初はイラストを描いていたっていうお話でしたね。

そうなんですよ。
幼少期からノートに漫画を描いていて、ずっとプロの漫画家になろうと思っていました。ただ商業ベースに乗せる壁を越えるのが大変だと気づいたので、〔ナナシ〕を始めるまでしばらく二次創作のイラストや漫画で満足していた感じですね。「私が描く漫画なら絶対に売れる!」という自信があったのですが、〔ナナシ〕を始めたことで創作の発信手段が音楽メインに変わっていきました。
イラストや漫画をやめたわけではなくて、音楽と合わせて自分の世界観を広げていきたいという思いがあります。

——カカシさんはほぼ音楽とは無縁とのことですが、いかがでしょうか。

自分はどっちかというとデザイン系の専門学校に通っていたので、そのままデザインの仕事をしていて、制作をメインでやっています。
どちらから結成の提案を?

——カカシさんはほぼ音楽とは無縁とのことですが、いかがでしょうか。

自分ですね。元々ゴシック系のゲームとか、そういう雰囲気の曲が好きだったっていうのもありましたし、ゴシック系の曲ってなんというか、廃れないじゃないですか。10年たっても好きな人は好きなので、時間がたっても大丈夫だろうという判断から、この限定的な路線でいこうって提案しました。YouTubeでいろいろ勉強していった時に「ジャンルは尖(とが)らせた方がウケる」っていう動画あったので、それを参考にしています。幅広くやると埋もれてしまうので……。だから、ゴシックで統一できるのかっていう不安はナナシの方にありましたね。

——ゴシックに限定して指定されたのは結構大変だったんじゃないでしょうか。

おっしゃる通り、ゴシックらしさを出すのがいまだに一番の課題です(泣)。
まず現在の音楽は「ゴシック(Gothic)」本来のものと、そのモチーフを活かした現代的な音楽としての「ゴシック風」に大別されると自分なりに考えています。〔ナナシ〕は後者に近いのですが、“らしさ”を出すためにバッハなどバロック時代の音楽を参考にしています。
その奏法や構成、楽器編成などの特徴を捉えて楽曲に入れるというようにしています。
〔ナナシ〕より前に作っていた曲は、クラシックピアノをやっていた影響からメロディーが古風な感じになってしまうのがコンプレックスだったんですよ。なんかメロディーが渋くて、普通の曲とは違うなとはうすうす気がついてたのですが。その古風なメロディーがゴシックに活かせると分かったので、そこはプラスに作用したなと思っています。

——ここから本格的にDAWを導入した感じですかね。

そうですね!
このプロジェクトを始めるにあたってCubaseを導入したので、まずはDAWがちゃんと使えるのかというところが不安でした。DAWは敷居が高いものだと思っていたんですけど、10年くらい打ち込みをやっていたので、移行するのにそんなに苦労はしなかったです。とはいえ、ミックスやマスタリング、オーディオデータの扱いなどには、いまだに頭を悩ませています。そこが研究のしがいがあるところだとも思っています。
楽曲について

——楽曲を聴かせていただくと、いろいろな要素を感じるんですが、ルーツはなんでしょうか。

『東方Project』を始めとするZUN様の音楽、『マリオ&ルイージRPG』シリーズの下村陽子様の音楽、ファミコンなどレトロゲームの音楽、この三つがルーツとして大きいです。
ちなみに東方っぽい感じが出ているのは意識してやっているわけではないので、好みがにじみ出てしまっているんだと思います(笑)!

——いろいろな楽器にメロディーラインを任せていて、柔軟に作っているなと思っています。メロディーについてもいろいろ聞かせてください。

あまりリード楽器の決め方を意識したことはないですね。
「BGMとしてはうるさいけどメロディーが特徴的なインスト曲」に仕上げるというところは意識的にやっています。「メロディーは歌である」という考え方があるので、インストだとしても物語性を表現できるようなメロディー作りに努めています。例えばエレキギターをリードに使った曲であれば、止めどなく流れるようなメロディーで激しく訴えている様子を表現したり、叫ぶようなハーモニクスの音を入れたりというイメージで作っています。
そういう意味では、楽器選びにこだわっているというよりは、メロディーラインを重視した結果としていろいろな楽器を使っているという感じです。制作の際はピアノでメロディーラインを作って、別の楽器に置き替えていくという作業をしています。

——いい意味で現実的なピアノのフレーズも特徴的だと感じました。

ありがとうございます。
実は自分が練習すれば弾けるレベルのフレーズを入れているんですよ。2人以上の連弾やピアノを2台用意しないと弾けないような曲もあるんですけど、できる限り現実で演奏可能な楽譜にするという強めのこだわりはありますね。あとは吹奏楽部で打楽器をやっていた関係で多少ドラムの知識があるので、ドラムも基本的には現実で演奏可能なフレーズを入れるようにしています。

——Apple Musicに上がっている楽曲はほとんど聞かせていただいたんですが、結構激しい曲が多いですよね。

Apple Musicに上がっている曲のほとんどがフリーBGMとして配布しているものなんですけど、曲調的には結構戦略的に出している部分があります。〔ナナシのゴシック!〕で人気のあるBGMは大体が戦闘曲で、自作ゲームやTRPGの戦闘シーンで使っていただいていることが多いみたいで、そこに対してアピールできる曲が多いですね。
ターゲットを絞った戦略

——本当にターゲットをかなり絞って活動されていますね! この辺りの戦略はカカシさんの担当なんでしょうか。

そうですね。ターゲットとしては私みたいな人に焦点を当てていて、ゲームのかっこいい音楽とかが好きな人に刺さったらいいなって思っています。なので、BGMも速くなりがちなところはありますね。〔ナナシのゴシック!〕の場合、ゆっくりで静かな曲だと最初に離脱されちゃうので、最初でどうつかむかっていうのはかなり意識しています。ただ、聴いた感じの速さと数値上の速さに差があるので、そこで「もっと速く」とか「これ以上速くしたら……」みたいな言い合いにはよくなりますね(笑)。

——結構言い合いながら作っているんですね!

聴く人に気に入っていただくのが本望なので、カカシの言うことを信じようという気持ちもありつつ、「戦闘曲が多いな……」みたいなのはしょっちゅう言ってますね(笑)。
全然建設的じゃなくなる日もあります(笑)。
新譜『Score of Insight』について

——M3にも伺わせていただきましたが、新譜として物語音楽である『Score of Insight』を買わせていただきました。これを作ろうとしたきっかけについてもぜひ教えてください。

M3で何を出そうかなって考えた時に「物語音楽でやろう」って提案したのが始まりです。大前提として自分も物語音楽が好きだったっていうのはあります。ちょうど歌詞を書き始めるようになったのと、M3では普段とは違う人たちにも聴いてほしいっていう狙いもあって、通常の歌ものとはちょっと違うジャンルで出展しました。
それとM3では物語音楽が好きな人結構いるかな……?っていう狙いもありました。

——制作にも相当苦労があったかと思いますが……。

音楽と歌詞は同時進行で作っていましたね。サビだけ作ってもらって、そこから小説じゃないですけど、結構長めの文章を書いていきました。その小説の全体からここまでは1曲目、ここまでは2曲目にしようとか、ここまでをオープニングにしたらいいよねっていう感じで作っています。

手に取っていただいた『Score of Insight』はScore of ◯◯シリーズの2作品目ということでキャスティングにこだわりまして、声優様3名に依頼いたしました。
結構激しい曲も多かったのでギリギリまで作っていて、制作にはすごく苦労した思い出がありますね。
楽曲作りを通して

——楽曲作り全体を通してどんな風に聴いてほしいでしょうか。

フリーBGMを作っているチームなので、使ってくださる方がいて成り立つものだと思っています。
BGMにはそれぞれキャラクターが付いていますけど、あくまで提案というか参考になれば いいなっていう感じです。「自分だったらこうしたいな」って気持ちで自由に使っていただいて、私たちの音楽で自分の創りたいものを表現していただければうれしいですね。

結構私自身が生きづらい人間なんですよね。
楽観的に見えてささいなことで怒ったり悲しんだり、負の感情が強い人間なんですが、その反面、楽しかったとかおいしかったとか、喜びの感情もとても強いと感じていて、そういう色んな感情を音楽に乗せて表現していると思っています。
〔ナナシのゴシック!〕を始めるまではそれを一人でやっていたんですが、チームを組んで音楽を発信したことで、音楽って一方通行じゃないんだっていうことを改めて実感しました。発信すれば答えてくれる人がいるということに気づけたのが、この活動をしていて良かったなと思うところです。あとは「苦しいけど戦いたい!」というような強い気持ちも表現できていればと思うのですが、聴く人の心に届いて「この曲いいな」と共感してくれる人がいたらうれしいなと思っています。

BGM素材として創作活動に役立ててもらったり、日々の生活で聴いていただけたり、そういうつながりが循環したらいいなと思っています。
これからについて

——本当にいろいろ聞かせていただきましてありがとうございます。ぜひ今後の目標や挑戦について教えてください。

ミックスをもっと頑張りたいと思っているのと、今DTMスクールの講師としてお世話になっているのですが、そこで別の講師の方からモニター環境をよくした方がいいという話を聞いたので、機材など制作環境もそろえていきたいなと思っています。

今はフリーBGMチャンネルとして動いているんですけど、こちらは有料にはなってしまいますが音楽素材集を出したいなと思っています。
現時点では、キャラクター一人に焦点を当てて、始まりから終わりまで使えるようなBGM集を作りたいなと考えています。例えば、魔女のキャラクターに使える素材集だとしたら、出会った時のBGMからエンディング、会話パートとか戦闘曲とか全部のシーンで使える1セットの音楽素材集みたいなイメージです。
そんな感じで、ある一人のキャラクターに徹底して展開していって、悪魔をモチーフにしたVTuberさんに特化したBGM、火属性のキャラクターに特化したBGMとか……そういう感じでもやれないかなって考えています。

——活動的な面ではどんなことを考えているでしょうか。

これからもフリーBGMを作っていく中で、誰もがものづくりに気軽に参加できるようなお手伝いをしたいなと考えています。それを続けるためにも、私たちからの発信と皆さまからのフィードバックの循環をこれからもやっていきたいですね。
あとは、同じチームでやっている『東方Project』のアレンジ曲に絞った二次創作チャンネルもありまして、そちらももっと動かしたいなと思っています。

こっちは趣味としてやっているので、気楽にやっていけるといいなというスタンスではあります。
皆さまへメッセージ

——最後に皆さんへメッセージをお願いします。

〔ナナシのゴシック!〕を聴いてくださっている方々には、音楽を聴くために聴いている方と、使うために聴いてくださっている方の両方がいると思います。そこのバランスは崩したくないと思っているので、聴く方にも使う方にも楽しめるような楽曲を今後も作りますので、よろしくお願いします。

〔ナナシのゴシック!〕にはかわいいゴシック、かっこいいゴシック、いろいろあります。1曲でも多く聴く人の心に響けばいいなと思っております。
今後ともよろしくお願いします!
この場を借りて……

追加でこの場を借りて言っておきたいことがありまして……。

——全然かまいませんよ!

作詞と作曲の遅れで、M3の納期がギリギリになってしまって、録音していただく方の納期がものすごく短くなってしまったんですよね。この納期だと難しいかなって思っていたんですけど、ツクヲサキ様が本当に頑張ってくださって、短い納期で納められました。本当に感謝しています。
関連リンク
- HP
https://nanashinogothic.com/ - X
https://x.com/nanashigothic - YouTube『ナナシのゴシック!』
https://www.youtube.com/@nanashinogothic - YouTube『ナナシのフィクション!』
https://www.youtube.com/@nanashinofiction
- Special Thanks ツクヲサキ
https://www.youtube.com/@tsuku_note