橙ミャオ氏について

ご紹介

作曲家 橙ミャオ氏

後編では、橙ミャオ氏の今後の目標や挑戦について聞いた。明確な目標は置かず、振り返ったときに高い山に登っている、あるいは深みにいる状態を目指すという独自のスタンスの背景には、推し活にハマれなかった自身の経験があるという。VSingerを取り巻く文化への思いや、界隈の交流を生む役割への関心、読者へのメッセージも語ってもらった。

インタビュー全文

今後の目標や挑戦

Tukkun

——本当にここまでいろいろ聞かせていただきましてありがとうございました。ぜひ今後の目標や挑戦について教えてください。

橙ミャオ

御伽田カズヤさんっていう動画も作って、音楽も作り、イラストも描いてみたいなすごいマルチクリエイターの方がいらっしゃって、この方をすごい尊敬しているんですよ。御伽田さんがおっしゃっていたんですが、「目標を持たないことが目標」って言っていたんですね。それに衝撃を受けたというか、このスタンスって合う合わないがあると思うんですよ。ファンの方にとってみたら、目標を持ってもらっていた方が応援しやすいじゃないですか。ただ、わたしの活動方針としてファンの皆さまには配信で「ご依頼者さん優先だよ。配信は趣味だからね」っていうことは伝えているんですね。そういう姿勢でやっているので、ファンネームも付いてないですし、聞いてくれている人たちに線を引きたくないっていう意識もあってそういう風にしてもいます。

橙ミャオ

なんというかインターネットってもっと自由な場所だと思うんですよ。わたしの曲は聴きたい時に聞いてほしいですし、最新作が出たから絶対見なきゃっていう姿勢だと大変といいますか、わたし自身がそういう消費者だからこそ、そういう姿勢を肯定したいなっていう思いがあります。そういう意味では、推し活っていうものにハマれない消費者だったっていうのもあるんですけど、そこに対する反骨精神というか、悔しさみたいなものもありつつ、こういうスタイルでやっている感じです。でも、昔の“おたく“って、外から見て何をやっているのかわからない人間たちの集まりだったとは思うんですよ。今でこそ“オタク”と“推し活”みたいな肯定的な文脈で扱われてますけど、かつては侮蔑のニュアンスすらあったじゃないですか。わたしはまだ侮蔑の意味を込められた“おたく”の側(がわ)なんだと思ってます。
自分のことを表現するのに、周りの目を気にせず、本質を突き詰めていくような悲しきおたくですね。

Tukkun

——そういった考えの中でどんな風に曲を聴いてほしいとかってありますか。

橙ミャオ

本人が推し活できないので、皆さんにも好きな時に好きなだけコンテンツに触れてほしいなって思っています。別に曲を聴くのに推す必要もないですし、曲を聴くだけならファンですらなくてもいいと思っているぐらいです。でも、数年後にたまたま聴いた曲のクレジットを見たら「この曲って橙ミャオが作ってるんだ」みたいな感じで交わったらすてきだよねぐらいの世界観で生きていきたいですね。

目標に対する考え方

Tukkun

——目標に対する考え方にも世界を感じますね。

橙ミャオ

ファンからお金をいただいて生活しているわけではないからっていうは大きいですよね。
あとはちょっとこぼれ話なんですけど、わたしって競馬が好きなんですよ。でも賭ける方には全然ハマらなくて、かわいいお馬さんとジョッキーの方が一緒になって必死で走るっていうドラマに魅力を感じているんですよ。とはいえ、なんで賭けることにハマらなかったんだろうって考えた時に、短期報酬系の喜びに魅力を感じないっていうことがわかったんですよ。それに気がついた時、目の前の目標に走っていくよりも、人生が終わった瞬間にどこまでの高みに登れたのかを重視していること気がついたんですね。私自身もそのぐらいのスパンで考えた方がいいんだなっていうのをとても感じました。

橙ミャオ

ただ、全く目標がないと「こいつやる気ないのか」って思われちゃうなということで、それに近しい概念を6周年の時に考えさせてはいただきました。それが何かっていうと、明確な目標に向かって進んでいるわけではないけど、振り返った時に確かに高い山へ登っているなっていう形にはなりたいなと思っています。それが深みへいくような穴を掘るっていう表現でもいいかもしれないですけど、その時確かに別の場所にいるっていう状態にはなっていたいですね。むしろ深みの方へいきたいぐらいかもしれないですけど!

Tukkun

——自分の世界観も掘り下げていきたいっていうことですね。

橙ミャオ

そうですね。何度も繰り返すんですけど、超極端な話をするとファンというかリスナーさんからの応援がなくても現状で食べていけるわけですよ。そうなると、本当に自分の世界観を追求できるというか、応援してもらうためにはわかりやすく山に登る必要が出てきてしまうので、ある意味では自分を追求できる環境にいさせていただいてるなって思っています。簡単にいうならば、目標を達成すること自体を目標にはしたくないっていう感じですかね。
ただ! 大前提として皆さんからの応援には深い感謝をしていますっていうのはこの誌面を通じて伝えたいですね。

Tukkun

——なかなかそこまで割り切るのも難しいように感じます。

橙ミャオ

でも、わたしが登った山とか掘った穴がいつか誰かの何かをしようとした時に役立つんじゃないかなとは思ってます。穴を掘っていく過程で生み出されたわたしの知見と成果みたいなものが、山を登る人の役に立つかもしれないですし、わたしとしても基礎研究をやっているようなイメージではあるかもしれないですね。いつかわたしの通った軌跡を通って生まれた楽曲が何億回も再生されたらいいななんていうのは思っていたりします。せっかくそれが許される立場にいるのならね!
だから、成功という言葉も必要ないかもしれないと思っていて、わたしが成功だと思ったら成功だし、それが必ずしも社会的成功を意味しなくていいかなとは思っています。

Tukkun

——そうした確固たる世界観あるからこそ、ご依頼が絶えないのかもしれないですね。

橙ミャオ

オールラウンダー型の作曲家ではあるので、“逆に強みが見えづらく”集客に苦戦していた時代もあるんですけれど、こうして精神性みたいなところを出すことで、使い所がわかりやすいクリエイターにはなれたのかもしれないですね。らでんさんのBGMをご担当させていただきましたけど、ホロライブの中でも新規開拓というか、異色の存在になれたという部分について考えると共通項を見いだせなくもないといいますかね。クリエイターの精神的な部分はばかにできないなと感じる出来事でもあったかなとは思います。音楽は言語化できない領域だからこそ、そういった部分がにじみ出て依頼になるのかなとか感じていますね。

活動面でのやりたいこと

Tukkun

——ぜひ活動的な側面でもやりたいことなど教えていただけたらと思います。

橙ミャオ

わたしそのものっていうよりは界隈全体のことを考えているんですけど、今のVSinger界隈ってすごくいい状態だと思うんですよ。歌枠リレーみたいな文化もあり、リアルライブもあり、昔から界隈を見ている方としては、すごく枝葉が広がってきているような印象を受けています。VTuberという存在をアーティストとして捉えて、その音楽を楽しむ未来が来るなんていうのは想像もしていなかったので、想像以上にいい方向に向かっているんじゃないでしょうか。これって同じ世界を繰り返したとしても、10回に数回引けるか否かの世界線だと思っているんですよ。そんな世界になってくれたからこそ、わたしが自由に曲を作っても個性として認めてもらえるし、歌ってくれたVSingerさんの挑戦とも取ってくれるわけですよね。

橙ミャオ

アニソンのまねみたいなところから始まった世界がやっとスタートラインに立ったというか、ここからVSingerとしての文化をさらに発展させていかないといけない気持ちになっていますね。

Tukkun

——その中で何か考えていることはありますか。

橙ミャオ

何事も挑戦がないと未来がないというか、衰退してしまうと思っているんですよ。例えば『Stellar Stellar』でさらに認知度を上げた星街すいせいさんが新しいことをやった時に、もちろん冷笑する人はいると思うんですよ。でも、それ以上に新しいことに挑戦したいとなったら、付いてきてくれるファンの人たちの方が多いと思っていて、そこに価値を作り出しているVTuberさんも多そうだなって思っています。そういう文化的な地盤があるのであれば、作曲家としてはそのチャレンジを後押しするような取り組みをしたいなと思ってますね。変わらないものの価値っていうのはあると思うんですけど、カルチャーはいつでも刷新を求めていますし、それによって文化の寿命が延びますからね。

Tukkun

——VSingerというか、VTuberの音楽に黎明(れいめい)期から関わっているからこその視点ですね!

橙ミャオ

5年前からずっとこの文化的なシーンを見続けてきた人っていうのもいないのかなって思いますので、ある意味では貴重な人間かもしれないですよね。だからこそ、これからはきちんと自分自身についても発信していくことがこの文化のためになるのかなっていうのも考えています。

橙ミャオ

でもわたしの主張だけが正しいわけではないので、最近は知見交換がしたいなって思っています。わたしも相当この界隈に関わって来ましたけど、VSingerさんについては1%も知らないと思うんですよ。特にファンの人たちが何を考えているのかっていう点は深堀をしたいですよね。何を求めているのかっていうのは表面的に理解しているつもりなんですけど、なぜそこに至っているのかはわからないので、むしろファンの人たちから話を聞きたいなって思っています。クリエイターサイドにいるから余計ですよね。なぜ推し活をしているのか、逆にクリエイターが何を考えているのかっていうところが上手に混ざれば、それによって切り開ける未来があるんじゃないかなと考えています。
ここまで話したことをまとめると、わたし自身の目標っていうのはないのかもしれないですね。

VSinger文化

Tukkun

——確かにこれまで話していただいたように、文化という点ではかなり発展してきましたね。

橙ミャオ

あとは、アイドルファンの人って楽曲派みたいにいわれることがあるんですけど、そういう文化の人たちってやけにコンポーザーに詳しいんですよ。
似たような出来事があるんですけど、わたしってオリ曲の公開にはできるだけ立ち会わせるようにしているんですけど、コメント欄で「みゃおさんが作った楽曲なら安心だ」って言ってもらえるんですよ。わたしがどうこうっていうより、そういった現実にも存在するような楽曲派みたいな文化的土壌が出来上がっていてうれしいなって思っています。単純に演者さんとファンっていう関係じゃなくなっているのがいいですね。

Tukkun

——界隈について真剣に考えられている姿勢が感じられてわたしも身が引き締まる思いです。

橙ミャオ

ただ、この界隈だけについて考えていてもダメなんじゃないかなって思っています。
TAKUYA the bringerさんっていうDJの方がいらっしゃるんですけど、秋葉原ENTASという箱でかつてブッカーをされていて、“VMDJ”とか“Vの宴”っていうイベントをやることで、一つの界隈みたいになっていったんですよ。これがすごくいいモデルケースなので、VSingerの活性化という意味ではこれに匹敵するような界隈を作って相互の交流を生みたいなとも思っています。
でも、わたしにも時間的な制約があるわけで、自分自身が作るっていうところまで考えられていないので、誰かが界隈を作る材料を渡す役割を担いたいですね。そのために、わたしの持っている知見とか、文化の水準ってどうなのかっていう分析が得意なところを活かして、その目線を共有したいですね!

橙ミャオ

ゲーム制作ディレクターの桜井政博さんがおっしゃっていたんですけど、クリエイターさんたちの人生に“ちょい足し”がしたいといっていて、わたしもそろそろこの文化圏ではちょい足しをするべきなのかなと感じてきたところです。
このぐらい自分自身を過小評価するぐらいにはいい文化水準でもあるっていうことだと思います。

Tukkun

——文化という点ではメジャーとインディーみたいな雰囲気もありますからね。

橙ミャオ

NHKのラジオ番組に星街すいせいさんがMCをやってる『ぶいあーる!〜VTuberの音楽Radio〜』だと、わざわざ『個人勢VTuber推し曲まつり!』なんていう回が設けられてますからね! そういったインディーVを盛り立てていく文化みたいなものをメジャー側もきっと望んでいるはずなので、それに呼応するムーブメントも必要とされているんじゃないかなとは考えています。もしできたら面白いなと思っていますが、なかなか難しいですね。

皆さんへメッセージ

Tukkun

——最後に皆さんへメッセージをお願いします。

橙ミャオ

Echo Lineをお読みいただいている皆さんは、わたしの音楽が好きな方かもしれないですし、たまたまフォローをいただいている方かもしれません。いずれにしても、橙ミャオの活動を気にかけていただいている皆さんだと思います。まずは、本当にいつもありがとうございます。インタビューの中でも申し上げましたが、目標らしい目標をあえて持たずに、その時にやるべきことをやって深みに潜っていくようなクリエイターですので、数年後に見かけた時にでも「なんかすごい深いところにいるな」って思ってもらえたらうれしいです。そんなことを思いながら日々制作を続けていますので、このインタビューを通して「これってそういうことだったんだ!」みたいにニヤっとできる瞬間が少しでもあったらいいなと思っています。

橙ミャオ

これからも橙ミャオの音楽、お仕事、どうぞよろしくお願いいたします。

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