夕立P氏について

ボカロP 夕立P氏
音楽の成績が1だったという夕立P氏。正式な音楽教育を受けないまま、東方Projectの同人活動をきっかけにDTMを始めた。初音ミク発売を機にボカロPとしての活動を本格化させ、イントロやアウトロ、音色選びなど独自のこだわりを持って楽曲を制作してきたという。リスナーとの双方向的な関係づくりにも力を入れており、今後はボカクラで流れるような楽曲やバンド演奏向けの楽曲づくりにも挑戦したいとこれからについて語ってもらった。
インタビュー全文
音楽との出会い

——ボカロPとして活動されている夕立Pさんにインタビューができて光栄です。早速ですが、音楽との出会いについて教えてください。

実はDTMを始めるまで音楽経験っていう経験が全然ないんですよ。義務教育の過程で音楽の成績が1になることもあって、結構ひどい経歴だったりしますね……(笑)。ただ、当時はコードなんていう概念を知らなかったんですけど、幼少期からコードが変わると同じメロディーでも印象が変わるなとか、そういう聴き方をしていたのは覚えています。高校生の時にはコンビニでバイトをしていて、店内BGMを聞きながら「こういう展開なら次はこんな展開になるか……?」みたいな予想をしながら遊んでいたのも今につながってはいるかもしれませんね。

なので、正式な音楽教育を受けたことはなくて、めたさんから少し教わったぐらいでやっていたかなと思います。当時からアナリーゼ(楽曲分析)に近いことをしていたんじゃないでしょうか。
めた氏の記事はこちらから
【作編曲家】めた(生原愛) 「自分が飽きないこと」を一番大切に。音楽と向き合い続けるということ【インタビュー】
DTMを始めるきっかけ

——それは本当に意外でした。DTMを始めるきっかけってなんだったんでしょうか。

当時Mixiがはやっていたんですけど、そこで東方Projectの同人仲間とつながったのがきっかけですね。みんなイラストとか漫画を描いていたんですけど、私はそういうのができないし……。でもみんなと仲良くなりたくて、フリーのシーケンサーソフトで東方アレンジを始めたっていうのが音楽に片足を突っ込んだきっかけだったと思います。
それを続けていたら歌物も作りたくなって、いろいろ探していたら作詞した歌詞を投稿できるサイトを発見したので、そこへ勉強も兼ねて歌詞を投稿するっていう形で自分の作った歌詞を投稿していました。作詞に関しても専門的な勉強はしていないんですけど、そこでかなり鍛えられたなって思います。
ボカロPになったきっかけ

——そこからボカロPへ行ったのにはどんなエピソードがあったんでしょうか。

2007年に初音ミクが発売されたんですけど、東方Projectのアレンジを初音ミクに歌わせたいっていうのが最初でしたね。ただ、当時は誰もやっていなかったのと、技術力が足りなかったので断念したんですけど……。ただ、ボカロPを意識し始めたのは、自分の中で代表曲を出した時ですかね。なので、昔からの仲間たちは今でも昔のハンドルネームで呼んでくれます(笑)。
あとは、『風神録』辺りで作業環境をMACに変えてしまって東方から離れざるを得なかったっていうのもありましたね。当時は誰かにそそのかされて「MACの方が音楽作りやすいぞ」って言われたのでそれを信じて変えました。
楽曲について

——楽曲についても聴かせていただければと思います。曲を作りたいなって思うタイミングってどんな時にあるんでしょうか。

一番作りたいと思う衝動に駆られる時っていうのは、面白い曲に出会った時ですかね。そこが本当に第一の基準ですね。なので、結構オマージュとかパロディーをさせていただくことがあるんですけど、その中には意図せずに似ちゃうような曲もあります。

——『シュースタ!』もオマージュだったんでしょうか?

この楽曲に関しては本当に偶然ですね。人から言われて初めて気が付きました。
生音と楽曲の展開について

——作られている楽曲を聴いていると、生音成分が多い楽曲もあるんですが、楽器のご経験はあるんでしょうか。

今まで楽器は全然やったことないですね。MIDIのキーボードも音を確認するためにたたいているだけで、キーボードとしては弾けないです……。ただ、このままだと一生楽器に触らないかもしれないと思って最近楽器練習チャンネルを立ち上げました!

——全体を通して聴いていると、楽曲の展開が王道といいますかいい意味で固い感じがしますよね。

それに関しては本当に覚えやすさとキャッチーさを第一に作っているっていうところがあるからですかね。一部『妄想』みたいな変拍子の楽曲もあるんですけど、曲が変わるほどまではやらずに、でも印象がガラッと変わるぐらいのところを意識しています。
あとはモチーフをすごく意識していますね。

——詳しく聞かせてください。

例えば『レイニーレイニー』っていう代表曲があるんですけど、友達とカラオケへ行った時に、そこで歌っていた1990年代のアニソンをリファレンスにして作った感じです。だからその楽曲にはすごく似ているような感じにはなります。
結月ゆかりさんの登場頻度

——あと結月ゆかりさんの使用頻度が結構高めですよね。

音楽を作り始めたぐらいの時に東方の同人仲間から未開封のDTMソフトをプレゼントされたのがきっかけです。そのプレゼントされたDTMソフトのバージョンアップ先(Music maker)にバンドルされていたのが結月ゆかりだったっていう感じです。
音数とパンについて

——そんなエピソードがあったんですか(笑)。あと、音数も過不足ない感じですごくちょうどいいですよね。

これに関しては自分のキャパの問題ですね。自分の中でキャパを超えなければ足していくし、超えたら減らすしっていう感じです。あとは退屈かそうじゃないかも基準の一つですね。基本的には退屈に感じたら音を足すんですけど、ピアノが1本でも面白かったらそれ以上音は足さないしっていう感じで音数は調整しています。

——音によってはパンも左右にかなり振っていて、これも特徴的ですよね。

『トコイ』がかなり特徴的かもしれないですね。実は左右で違う音が流れていて、片方ではバンドサウンド、片方ではドラムンベースを鳴らしてみるっていう感じの曲になっています。これはギミックとしてやっているんですが、片方が“トコヨ”で片方が“カクリヨ”、合わせて『トコイ』っていうバックストーリーもある感じです。
あと、初期の楽曲に関しては正直パンニングが分かっていなかったので、自分で聴いて面白い曲になっていたら良いっていうことで左右に思いっきりパンニングしていたような感じにもなります。最近はMIXする時の定位も考えながらちゃんとパンニングをしています……!
イントロとアウトロについて

——特徴的という点ではイントロもかなり工夫されているなと思っています。イントロが2種類あるみたいな展開もあって面白かったです。

音楽における意外性というか、裏切りみたいなものがほしいのでイントロをそんな感じで作っています。ただ、ジャンプスケアみたいなやり方はしたくないので、きちんと導入がある驚きを作るようにしていますね。あとは聴く楽曲の趣向としても、意外性のあるものを聴いているので、その影響もあると思います。
それにイントロって楽曲の顔でもあり、導入でもあると思うので、そういう意味ではサビよりも重視して作っているかもしれないです。もちろんサビから作る楽曲が多いんですけど、このサビに対してどういうイントロでAメロBメロを持っていくかっていうフレームで考えています。

——アウトロについてもかなりこだわっていますよね。

そもそもフェードアウトで終わる曲があまり好きではないので、ちゃんと終わらせようっていう意識を持って作っています。いったんこの曲は終わりだから、次の曲を聴いてくださいっていうような構成は常に考えてますね。
音色について

——音色も多種多様ですが、選ぶ基準等はあるんでしょうか。

曲を作る時にリフやメロディーが思い浮かんでくるんですが、それに対してどんな音色が合うのかっていうのを考えています。こんなコードならこういう音色がいいなとか、この音色なら電子音のベースがいい、生音のベースがいいとか基盤を決めつつ他を盛り付けていくっていう感じです。

——最近だとバンドサウンドも多めですよね。

結果としてそうなってますね。結局生音楽器は扱ったことがないのでこれも打ち込みになるんですけど、電子音だと選ぶだけで一生悩んじゃうっていうのもあってバンドサウンドが多いんじゃないかなと思います。
そのうち、ピアノソロとかオーケストレーションを書き始めるかもしれませんね。
歌詞について

——歌詞に関しても伺いたいんですけど、どの楽曲も基本的には若干のネガティブな要素を含んでますよね。

これは、自分が世の中の色んなものにひねくれてるだけです(笑)。中にはすごくキャッチーな楽曲もあるんですけど、暗さとキャッチーさは両立すると思うんですよ。すごく明るい楽曲だけどよくよく聴いてみたら「暗い楽曲だった……」みたいなことって世の中の曲にはいっぱいあると思うので、それと同じですかね。
あとは、みんな拗(こじ)らせてるところがどこかにあるんじゃないかなって思っていて、曲を作る側(がわ)としたらどう拗らせたら共感してもらえるのかなっていうところは考えています。
楽曲制作にかける時間について

——そもそも楽曲を作るのにどのぐらい時間をかけているんでしょうか。

大体半日から1日で初校を作っちゃいますね。そこから丸1日その楽曲を聴き続けて、違和感のあるところを手直ししていく感じで進めています。どんなところに違和感がっていうのは、感覚になるんですけど曲に対して向き合うことは忘れていません。

——かなり実験的な側面も強いですね。

その時のやりたいこととか、浮かんだことを手当たり次第に作っている感じなので、ファンの方がいらっしゃったら、常に突き放すようなことをしていて申し訳ありませんっていう感じですね……。
これからの挑戦と目標

——本当にいろいろ聞かせていただいてありがとうございます。ぜひこれからの挑戦と目標についても教えていただければと思います。

ちょっと欲望ベースで語るとするなら、ボカクラで流してもらえるような曲を作りたいなとか、バンドで演奏してもらえるような曲を作ってみたいなっていうのはありますね。あとは、裏でピアノを弾くための練習としてエチュードを書いているんですけれど、その辺りが挑戦になります。

——活動的な部分ではいかがでしょうか。

自分が昔に展開していたメディアを復活っていう訳じゃないんですけど、きちんとリスナーとしての活動をやりたいなっていうのは思っています。キュレーションともいえるのかもしれないですけど、アマチュア、プロ、商業など関係なくいろいろな曲を広く深く聴き込んで文章力とか耳とか感性を鍛えたいですね。

——名刺サイズのカードに感想を書き込む活動を今でも続けていらっしゃいますもんね。

そうですね。願わくば他の人にもまねしてほしいなって思っています。なんというか、そもそも感想を送ったらそこで終わりみたいな関係にはしたくなくて、リスナーも作曲者側も双方向でやり取りできるような関係性があったらいいなっていうのはずっと考えてますね。そのための施策みたいな感じです。せっかく、インターネットの世界で生きていて距離が近いのにそこで双方フィードバックをもらわないのってもったいないじゃないですか。それに反応がなくて寂しいみたいに言っている作曲者もいるので、そういったことも解決したいですね。

あとは、“良きアーティストは良きリスナーでもあるべき”だと思っているので、音楽を作っているのであれば、良いリスナーでありたいなと思います。

——他にはあるでしょうか。

時々noteを書いてお役立ち記事みたいなものを作っているんですけど、他の活動者の方に役立ててもらえるようなコンテンツを提供できたらうれしいなと思ってます!
あと、終末レコードっていう終末時計をモチーフにしたネットレーベルをやっていて、コンピレーションアルバムを毎年作っているので、もしよろしければ聴いていただいて、ご参加もしていただけたらうれしいです。
みなさんへのメッセージ

——最後にみなさんへのメッセージをお願いします。

毎度音楽的に裏切るようなことばっかりして申し訳ありません。でもこれからも裏切り続けます。創作活動を続けていく一方でリスナーとしての活動もちゃんとやりますし、お役立ち情報もこれから公開しますのでぜひよろしくお願いします。
そば屋だと思って入ったのに、カレー屋だったし、出てきた料理も違うんだけど……みたいな感じだと思いますが、これからもよろしくお願いします!
